02 / 02 / 2022

食を中心にコミュニティを繋ぐ〈SUNPEDAL〉の小池陽子

新宿にほど近い静かな通りに面している小池陽子のアトリエ、その中は活気に満ち溢れている。ヴィーガンケータリング専門店SUNPEDALを立ち上げた小池が、目の前で色鮮やかな料理に付け合わせをあしらい、ドレッシングをかけ、一皿一皿を手際よく仕上げてゆく。カレー稲荷やシェパーズパイ、そしてキャンディのようなラッピングがされたエナジーボールが出来上がる頃には、それらのカラフルな料理がタペストリーのようにキッチンカウンターを覆っていた。コンパクトで居心地の良い彼女のアトリエを訪ねた私たちは、お皿とノートをそれぞれの手に持ちながら、SUNPEDALの世界について話を聞いた。

02 / 02 / 2022

小池がヴィーガン料理の世界に足を踏み入れたきっかけは、ロンドンで学生生活を送っていた9年ほど前に遡る。ロンドンのベジタリアン料理をはじめとした多様な食文化から強い影響を受けた彼女は、帰国後都内のヴィーガンレストランで研鑽を積みつつ、副業としてSUNPEDALの活動を始める。そして、2018年にSUNPEDALを本格化させた。まずはケータリングサービスとして事業をスタートし、その後ヴィーガンのお菓子やケーキなどの販売を始めると、オンラインでの販売がものの数分で終了するほど人気になっていった。「SUNPEDALの料理は、口に入れるまで想像できない、五感を刺激するような料理」だと小池は言う。 「農家さんや色んな方々の素材に対する愛情や思いを感じ、それを受け取りありがたく調理させていただいています。」

SUNPEDALのバーガーやブリトー、そしてケーキなどは一見すると馴染み深いものだが、その豊かな風味や鮮やかな色合いは、さまざまな国の料理を組み合わせた結果生まれたものだ。小池は試作を重ねるのではなく、世界各地の素材や調理法、そして食体験を取り入れながら、自身の料理が自然に進化してゆくよう心がけている。しかし、大の海外旅行好きだった彼女は、パンデミックを経て自分により近い日本国内に目を向けるようになる。2020年の暮れから一年、小池は日本全国を訪ね歩き、農家や生産者に会い、自然に触れ、その土地の暮らしを学んでゆく。それらの旅の出会いや気づきをきっかけに、彼女はSUNPEDALを「食」を通して街と地方をつなぐプラットフォームへと進化させてゆく。

02 / 02 / 2022

私たちが訪ねた日、小池は群馬のあっちゃーふぁーむに友人たちや生産者を招き開催した、アウトドアディナーでの感動からいまだ覚めやらぬ様子だった。赤城山麓の風景に囲まれて行われたそのディナーは彼女にとって、食、自然、そしてコミュニティの豊かさを確認する体験となった。それをきっかけに小池は東京、そしてより遠方の場所でコミュニティの豊かさに焦点を当てたイベントの開催を模索するようになる。

繋がりを生み出したいという思いから小池は、初のプロダクトとなる「さんぺだる塩」を2022年2月に正式に始動させる。シーソルトと、スーマックやセージなど16種のオーガニックや無農薬のハーブ・スパイスをブレンドしたこの香り高い調味料の販売を通して、SUNPEDALのエッセンスを日本中の家庭に届けたいと小池は願っている。「ケータリングのお弁当や通販に出しているスイーツは、基本的に完成されている形です。でも、ハーブソルトは自由に使えるので、お客さんの方でSUNPEDALの味をちょっとしたエッセンスとして入れ、完成してもらうことができます。」

ミュンヘンを拠点に活動する前澤知美がデザインしたパッケージの軽やかなイラストには、小池がスパイスやハーブを見つけた旅の記憶が刻まれ、このプロダクトがどのようにして生まれたかが表されている。その青緑色のボックスを手に取りながら、小池はこう付け加える。「調味料でありながら、パフュームのような感じで、キッチンに置くだけでより気分が上がるようなデザインになっています。」

彼女との会話、そしてSUNPEDALアトリエでの食事を通して、食を中心に人々を繋げるという小池の強い思いを垣間見ることができた。人との出会いによって生み出された彼女の美しい料理は、精神と身体、そして心に栄養を満たしてくれる。それは、明るく輝く太陽のように、食べた瞬間、頬をほころばせる料理だ。

 


 

2月2日から8日まで、新宿伊勢丹本館2階=アーバンクローゼットでSUNPEDAL主催による「さんぺだる旅まるしぇ」が開催予定。2021年の旅を通して彼女が出会った農家や生産者、クリエイターなどが一堂に会する。

文責:Ben Davis
翻訳:Futoshi Miyagi
写真:Daisuke Hashihara