〈ポスタルコ〉のエーブルソン友理が語る、ささやかな発想の源
ポスタルコのプロダクトは、機能性に留まらない価値を持つ。ペンからウォレット、そしてブリッジバッグに至るまで、どれも気づけば日常の一部となっている。日々を重ねるごとに親しみが増してゆくそれらのプロダクトの背後には、同じ視線で世界を、そして日常を見つめるブランドの創始者マイク・エーブルソンとエーブルソン友理がいる。
東京にある彼らのオフィスの地下は、書籍や試作品、美術作品など、二十年に及ぶリサーチや研究の成果で床から天井まで埋め尽くされた宝物庫のようだ。部屋の一角にある、日常の中で見落としてしまいそうな品々のコレクションは、友理さんがヨーロッパやアメリカに滞在していた時のものだ。ポスタルコのアートディレクションを担う友理さんにとって、これらのコレクションはどのような意味を持つのか。まず、膨大な量がコレクションされているオレンジの包み紙について聞いた。
エーブルソン友理: 収集を始めたのは20代、グラフィックデザインを学ぶためにスイスに留学していた頃でした。もともと文房具は好きだったのですが、初めて収集するようになったのはオレンジの包み紙でした。大切にしまっておいたわけではなく、興味を惹かれたものを集めることが楽しくなったんです。
オレンジは大好きなフルーツのひとつで、その包み紙も好きでした。色やグラフィックの遊び心などその印刷の加減、何かになろうと頑張りすぎていない感じも好きでした。イタリアやスペイン、カリフォルニアをはじめさまざまな場所で、さまざまな種類のものが作られ、紙の種類も異なります。それをデザインした誰かがいるにもかかわらず、デザインは匿名性が高い。
ある土地を知るとき、マーケットは最良の場となります。ファーマーズマーケットを訪ねる度に、売り手との会話が生まれます。「また君か、オレンジの包み紙が欲しいのかい、」という具合に。友人たちも包み紙探しに協力してくれ、少なくてもスイスにいた頃私は、オレンジの包み紙を集める人、と認識されていました。
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コレクションを築き上げるというよりは、集める行為に意義があるわけですね。これらの包み紙は、ポスタルコでの仕事に影響を与えたり、実際に応用されたりしたのでしょうか?
ポスタルコで何か新しいものを作るとき、ある色を選んで、バンク・グリーンやスクールバス・イエローなど、人々が想像しやすい名前をつけます。色は私の仕事においても重要で、これらのコレクションが私にとっての栄養源、色の栄養源となっています。
色に関してルールを設けているわけではありませんが、身の回りのものに自然と馴染む色、目立ちすぎない色など、飽きの来ない色が好きですね。このような古いものには、パントーンでは、見つけることのできない類の色が使われています。それらは人工的ではなく、とても自然な色です。私はとても美しい色だと思いますし、これらが私のインスピレーション源になっています。
何かをデザインする時は、それがデザインされたと感じさせないことを目指しています。デザインには長い時間を掛けていますが、ごく自然に見えるもの、デザインされすぎていない、そして主張しすぎないものであるよう心がけています。そうすることで手に取る人は、誰がそれをデザインしたのかということではなく、そのもの自体を見てくれますから。
多くの人がものを集めコレクションを維持していますが、その理由は様々です。
人が何かを収集するとき、ミニカーや時計など、多くの場合においてそれは、いずれ価値を持つ、あるいは値が上がるものだと思います。でも、これらは私のためだけのものです。私にだけ価値のあるものですが、それで良いのです。
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これらのコレクションには共通点もありますが、あなたの仕事との繋がりも多々見え隠れします。それらの繋がりを探っていると、まるで不思議な点つなぎパズルを解いているような気分にもなります。
きっと、それぞれのコレクションはその点なのでしょう。あまり絵を描くことはありませんが、アイディアが浮かんだときはそれを文字にすることで何かを作りだします。全てはこれらのインスピレーション源を発端としています。自分自身の資源を持つことが必要で、それは他の誰かのアイディアを取り入れたようなものではなく、私の場合は、このような匿名の、デザインされていないものです。
コレクションの多くは数十年もの時間を経たもので、友理さんと共に様々な国を旅してきました。今でも収集は続けているのでしょうか?
今はそれほど収集はしていませんが、印刷物がやはり好きですね。私にとってコレクションとは本のようなもので、頻繁に見ていなくても、それを持っているだけでインスピレーションを得ることができます。遠くにいる友人にも近いですね。彼らに会うことは少なくても、あなたの一部を成している。彼らがいるということだけで、安心できるのです。
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文責:Ben Davis
翻訳:Futoshi Miyagi
写真:Daisuke Hashihara