10 / 11 / 2021

〈a drop.〉の田邊瞭が語る、彼にしか淹れられないお茶

日本茶を淹れ、そして飲むことに、田邊瞭は情熱を傾ける。30代前半の彼は、東京東部にある小さなお茶サロン兼ショップa drop.の設立者として独自の立ち位置を築いている。「旅するお茶好き」を自認する彼は一年を通して京都や熊本、静岡など国内各地の茶農家を定期的に訪れ、丁寧に育てられた魅力的なお茶を探し続けている。東京の活動拠点に戻ると、旅で発見したものを試飲会でという形で提供し、遠く離れた土地で見つけたお茶の物語を編み上げてゆく。

10 / 11 / 2021

狭山茶の産地である入間で、田邊は茶畑に囲まれて育ってきた。役者としてのキャリアを追い求めたのち、田邊は屋台居酒屋の店主として独立、東京のフードシーンでの活動を始めた。その後、いくつかの出会いを経てお茶の世界に足を踏み入れることとなる。お茶の道を模索するうちに、技術や道具だけでなく、彼自身の活動や旅、日常生活の中で体験してきたことも、価値あることだと気づいた。

「『日本茶のすべて』という本がありましたが、歴史や作り方は書いてあるけど、人を楽しませる方法は書いていなかったです。人の楽しませ方は、それぞれの人生経験で変わってくると、その時に気づきました」と田邊は言う。「お茶業界の全体を見ても、専門的にやる人もいるし、でも僕はそれが苦手だから、感覚感情でやっていく役目だと思っています。」

感情を引き出すこと、そして個人的な体験を交えることによって物語が深みを増すことなど、演技とお茶作りの関連性に田邊は気づいた。その気づきを経て、お茶を飲むという体験をどのようにして豊かにできるかを模索し続けている。

10 / 11 / 2021

昨年の10月、田邊はa drop.をオープンした。蔵前のリノベーションされた古いビルの中にひっそりと佇み、同ビルに入居する小さなショップやアトリエとともに、日常から一歩離れたような空間を生み出している。ブルーグレーの色調と柔らかな照明が演出する店内に流れる音楽の多くは、ファンクやフォーク、ヒップホップのレコードで、それが独特のムードを生み出している。彼が受けてきたストリートやサブカルチャーからの影響が混ざり合ったその空間で、伝統的な、あるいは現代的な日本のお茶の味を楽しませてくれる。

カウンターに立つ田邊が一時間ほどのおまかせテイスティングコースで提供するのは、日本各地で見つけてきた4、5種類のお茶。お茶は、考えうる限り最もシンプルな淹れ方で提供される。余計な飾りやお菓子もなく、奇抜な解釈も加えない。「レコードを選ぶDJや、練習を重ねてストライクを目指す野球のピッチャーのような気分になることがあります。」それぞれのお茶が会話の出発点となり、そこからお茶の背景や風味についての深い話へと入ってゆく。そして、お茶を用意し供にするそのカウンターこそが、田邊の情熱を垣間見ることができる場となっている。

テイスティングコースに加え、カウンターの外でも田邊はお茶業界のパートナーたちとの繋がりを拡げ続けている。a drop.のコミュニティには、茶文化への彼の情熱に共感する若い世代の農家や職人たちも含まれる。

田邊にとって、a drop.は今なお発展を続けるプロジェクトだ。お茶好きから老舗の生産者まで、あらゆる人にとってのインスピレーション源となることを彼は目指している。そのゴールは、世界に波紋を広げる一滴のような存在になること、という明快なものだ。

文責:Ben Davis
翻訳:Futoshi Miyagi
写真:Daisuke Hashihara