15 / 09 / 2021

スタイリスト中田由美が語る、都市と自然が繋がる生活

なんの変哲もない石が革を纏った美しい止め石となり、それらがTOKYOBIKE TOKYOのカウンター後ろの棚に並んでいる。よく見ると店内には、インテリアスタイリスト中田由美が選んだ、山や自然に着想を得たさまざまなものが点在していることに気付かされる。それらがどこから来たのか知りたくなって訪ねてみると、中田は都市と自然とをつなぐライフスタイルとアウトドアに対する新たな関心について語ってくれた。穏やかな夏の朝、私たちは幡ヶ谷にあるNicetime Mountain Galleryで中田さんと会い、彼女のそのような関心が、日々の活動にどのような影響を与えているのか聞いた。

15 / 09 / 2021

栃木で育った中田は、自然に囲まれて育ったことになんの疑問も抱いていなかったことに、東京に住んでから初めて気づくことになる。建築や照明などの分野で活動した後、インテリアの世界で研鑽を積んでいた彼女は、十年ほど前に独立と前後して訪ねたスウェーデンで、自然に寄り添う暮らしへ新たな関心を抱くようになる。「大変な準備をしなくとも、思いついたら森や海に出かけ、しばしリフレッシュしてまた日常に戻る人々の生活に触れ、都市と自然が繋がっている暮らしの豊かさに衝撃を受けました」と中田は言う。

東京に戻ってから、彼女はどうすれば日本の首都でよりシンプルな暮らしができるか考えるようになり、「ハイクフルネス」という考え方に出会う。ハイキングとマインドフルネスを組み合わせたこの考え方は、彼女がスウェーデンの自然の中で得た精神の平穏を表しているようにも思える。その後しばらくして彼女はNicetime Mountain Galleryのチームと偶然出会い、トレイルランやハイキング、そして山を愛する楽しい仲間たちの輪に加わり山に足を運ぶようになる。

「山でかわるがわる現れる自然の美しさはもちろん言うまでもないのですが、特に驚いたのは体感する時間の流れです。自然に囲まれながら歩いていると、その一歩、その一瞬が自分のもののように感じられる。時間の変化を秒単位で感じられるというか。私にとってとても不思議な感覚でした。一日ってこんなに長かったっけ、と。」

15 / 09 / 2021

このような体験によって中田は、ごく自然と山でコーヒーを楽しむための道具や、どんな環境でも使える水筒など、ハイキングのためのツールに対し興味を持ちはじめる。「ハイキングは簡易化された衣食住を持って移動しているようなものですが、ひとつひとつの道具が自分のパフォーマンスに直結する。例えば靴を探す時も、足の形は人それぞれで、自分に合う靴でないとその反動は自分の体に返ってくる」と彼女は説明する。「他の人が良いと言ったものが、必ずしも自分にフィットするとは限らないので、自分の体に合っているか、自分が求めている機能を満たしているのかをじっくりと検討してみる必要があります。」

山に対する情熱が高まるにつれて、日帰りが泊まりがけの旅となり、Original Mountain Marathonなどオリエンテーリング大会への参加によって、自然という領域での新たな体験を知るようになる。コンパスと地図のみを使用するという大会のアナログな手法は、あらかじめ定められたコースを進むハイキングでは見落としがちな山の風景を見せてくれた。「東京でも、街を歩く時はなるべくその瞬間に集中してみます。道端で起こる季節の小さなアクション、微かな音、街の景色の移り変わりや人の動きなどが感じられ、街中どこでもインスピレーションが溢れていることに気づきます」と中田は言う。「移動スピードが遅ければ遅いほど、発見の数が多くなるのです。」

15 / 09 / 2021

国外を含む様々な場所で集めてきた山にまつわるものの中から、中田さんが特にお気に入りだという幾つかの道具やオブジェを見せてくれた。例えば、ハンドメイドのうちわ3点。沖縄の芭蕉紙を使用したうちわや、韓国人作家、イ・ジョングックによるもの。そして個人的に一番好きだという、アウトドアや医療分野で使われる素材Tyvekを用いて京都の老舗工房に仕立ててもらったもの。光を受けて輝くガラスのオブジェや器。旅先などで見つけた自然を感じるものが詰まったボックス。

「木々の隙間から溢れる木漏れ日、雨上がりに立ち上る幻想的な靄、芽吹いた新芽のグラデーション、土の踏み心地など、山の中にいると何にも変えられない美しいシーンにたくさん出会います。そんな心が動いたシーンを日常の暮らしの中に落とし込んだり、周りの環境の中から見出してみたら、都市での暮らしがより心地よく楽しくなるかも?と思って仕事や生活の中でもその感覚を大切にしています。」と中田が言った。

撮影協力:Nicetime Mountain Gallery

文責:Ben Davis
翻訳:Futoshi Miyagi
写真:Daisuke Hashihara