保存の先へ 川合将人が試みる建築の再生
日本のモダニズム建築を象徴するM氏邸は、千葉県野田市の閑静な住宅街に佇んでいる。1974年に完成したこの平屋の邸宅を設計したのは、前川國男の元で修行を積み、フランスでル・コルビュジェに師事した最後の日本人建築家としての経歴も持つ進来廉だ。
オーナーの厳密な指示のもと固められた案は、独創的な進来の手法によって130平方メートルほどの敷地上に実現された。原案では生活感の演出ではなく、美術作品や家具をどのように見せるかということに重点が置かれていた。加えて、屋内と屋外の繋がり、邸宅を取り囲む庭に差し込む光や植物の様子、季節の変化を感じられる開放感もオーナーは重要視した。建築家は、それらの要望に対する独自の答えを導き出してゆく。例えば、使用する素材と色の数を減らし、宮城県産出の玄昌石でつくられた濃灰色のタイルをリビングルームと外のテラスに用い、それが内と外の一体感を生み出している。
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BUNDLESTUDIOの創設者でありインテリアスタイリストとして活動する川合将人にとって、2019年に初めてM氏邸を目にしたことはひとつの転換点だった。豊かな歴史を持っているにも関わらず、当時邸宅は不完全な状態のまま放置されていた。1970年代初頭に美術をこよなく愛した若いオーナー夫婦の住まいは、その後の入居者による無計画な改装によって元の姿とは程遠いものになっていたのだ。邸宅の過去を知った川合は、元の建築が有していた美しさを復元するため、古い写真やスケッチ、そして残された数少ない資料をもとに、BUNDLESTUDIOとして改装のディレクションを手がけることに決めた。
2年半に及んだ改装作業は、考古学とデザインを同時に学ぶようなプロセスでもあった。川合はジャン・プルーヴェやシャルロット・ペリアンとの協働経験もある進来の建築に深い敬意を持つようになる。戸建の個人宅としては現存する数少ない進来建築は、川合にとっても、デザインの世界を俯瞰し再考する貴重な場となってゆく。
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「インテリアスタイリストとして、私の仕事はクライアントが提示する様々な要望に応えることから始まります。しかし今回の場合、私自身がクライアントでもありました、」と川合は振り返る。「自分自身が欲しい空間とは何かを考えなければならず、それは私にとって、困難を伴いつつも大変新鮮な思考の変化でした。良いデザインとは何か、暮らしの質とは何か、それらをより豊かなものにするために何ができるのか? 一度立ち止まって、自分が信じる方向性について考える、とても貴重な機会だったのです。」
改装が終わり、M氏邸は2022年にBUNDLE GALLERYとして生まれ変わった。同ギャラリーでは、川合がセレクトした家具や照明、その他インテリア製品が並ぶ。展示品は常に変化するものの、例えばロベルト・マッタによる曲線が美しいMalitteラウンジ・ファニチャーと、セルジュ・ムーユによるランプやその他ミッドセンチュリーの作品、そしてデンマークのデザインブランドFramaなどのコンテンポラリー作品が同じ空間に並ぶこともある。完成から50年が経った今、かつてのオーナーが意図した通りの、家具や美術作品に光を当ててくれる空間が蘇った。川合が率いるBUNDLESTUDIOもまた同じ建物内に拠点を移しており、日常的にその空間に身を置くことで、色褪せることのないその上質さを日々体感できるようにもなった。
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「今日は曇りがちな天気ですが、一番驚かされたのは、太陽光の入り方によって全く異なる表情を見せてくれることでした」と川合は言う。「午前中、ある場所から入り込んだ光が、時間が経つと全く別の窓から差し込んでくるのです。自然光の使い方から光と影の交わり方に至るまで、部屋が見せる表情は入念なデザインによって生み出されていることがわかります。」
2年目に入ったギャラリーは現在も定期的に企画展を開催し、デザインや建築をはじめとしたカルチャーの世界に身を置く人々から注目を集めている。モダニズム建築が減り続ける中、彼らの活動はその保存にとどまらず、古い建築作品に新たな命を吹き込むことにも目を向けている。
「古い建物を修繕し活用するというだけでも大きな価値がありますが、現在をどう生きてゆくかについて思いを巡らせた時、このような建築はその先の未来を考えるきっかけになってくれるはずです、」と川合は言う。「多様な出会いの空間となり、新たな創造性を生み出し続ける、この建物はそのような場へと生まれ変わったように感じます。」
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文責:Ben Davis
翻訳:Futoshi Miyagi
写真:Daisuke Hashihara