〈青果ミコト屋〉が作り出す、素材の背景を豊かに語るアイスクリーム
神奈川県青葉台の旅する八百屋「青果ミコト屋」の活動の中心には、語られるべきストーリーが常にあった。共同設立者の鈴木鉄平と山代徹は、過去十年にわたって数えきれないほどのロードトリップを重ね日本中を周り、農家の人々と時間をともにすることで、彼らの仕事に対する姿勢や直面する現実についての理解を重ねていった。
「美味しさには色んな判断軸があると思いますが、」鈴木が言う。「食べる環境によって美味しさも変わると思いますし、その食材や育てた人の人柄やストーリーなどを知ることができると、より美味しく感じられると思います。」このような野菜作りの背景を知ることによって、青果ミコト屋は「顔が見える」野菜を提供することができ、消費者に馴染みのない食材を知ってもらったり、それら季節の果物や野菜を用いて食事を用意する楽しみを感じてもらえたりする。
鈴木と山代は生産者たちの話を聞くことで、彼らが直面する困難、そしてさまざまな理由から食卓はおろか市場にすら届けられない、食材の質の高さを知ることになる。そのような農作物の流通経路を生み出すことで、フードロスの連鎖を断ち切るだけでなく、生産農家も新たな機会を手に入れ、自分たちが育てるあらゆる農作物に誇りを持つようにもなる。
2月にオープンした青果ミコト屋の拠点であるMicotoya Houseは、食品ロスに新たな焦点を当てる最良の場となった。その店内に生まれたのが、規格外の食材の可能性を探るアイスクリームスタンド、KIKI NATURAL ICECREAMだ。各フレーバーの材料は、パンの耳や傷のある梅干しやコーヒー豆など、青果ミコト屋が国中にもつネットワークを活かして仕入れたもの。そのままでは廃棄されてしまう食材を用いて作られたアイスクリームは、こんにちの食文化についての対話を促してくれる。日本国内だけでも年間およそ600万トンもの食べ物が、まだ食べられるにもかかわらず廃棄されていると言われる。
「歪な形や痛みなどは、その野菜や果物の個性だと思います。捨てられてしまうものでも、見方を変えれば宝物になるということこそ、私たちがアイスで表現したいことなのです。」鈴木はそう説明する。
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私たちがMicotoya Houseを訪ねたのは6月、薄曇りの朝で、店内はKIKIのアイスクリームケースを熱心に覗き込む客で賑わっていた。その日は、スタンダードなもの(カカオマスとカカオニブ)から、冒険的なもの(ビーツと梅干しと柑橘)まで10種類のフレーバーがラインナップされていた。その説明文は、詩情豊かにその味を表現している。
99. 間引き人参
人参葉が主役のアイスクリーム。発酵蜂蜜でグラッセした人参を散らして。セリ科としての人参の香りが濃く、夜明けの朝霧を口に含んだような涼やかさ。
「1スクープだけ、とはならないですね」と鈴木が笑いながら言う。ショップの前には家族連れや友人たちが、2スクープのアイスクリームが盛られたコーンを手に藤の下に集っている。キウイと葡萄の蔦が赤レンガのファサードを覆うように伸び、入り口の両脇にはバジルやパイナップルセージをはじめ、さまざまなハーブの芽が伸びている。甘い香りの藤の花と同様、それらの自家栽培された素材もまた、KIKIのアイス部門を担当する坂場理恵のレシピに取り入れられることとなる。
「畑と食べる人の距離をいかに縮めるかということは、本来八百屋の仕事です。ただ、売るだけではなくて、その距離をどう縮めるのか、それが課題ですね」と山代は言う。百を超えるアイスクリームのレシピによって、KIKIはその答えを出すことができるかもしれない。
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文責:Ben Davis
翻訳:Futoshi Miyagi
写真:Daisuke Hashihara